第7回 入院は寄宿舎の気分?

よく、ドラマで見かける入院シーンって「個室」ですよね。でも実際は、どんな病院でも、一番多い部屋は「大部屋」といって、4〜6人用の病室です。2人部屋、1人部屋もありますが、数は少なく金額も高く設定されています。

たとえば、私が2005年に入院していた病院では、6人用の大部屋での入院日額は5,700円。しかしこれが2人用、個室となると「差額ベッド料金」が発生します。

2人部屋  [+ 5,000円(合計10,700円/日額)]
個室Bタイプ[+10,000円(合計15,700円/日額)]
個室Aタイプ[+20,000円(合計25,700円/日額)]

これは一例。病院設備によって、部屋数、金額は異なります

とまあ、こんな具合です。個室を選ぶと日額が2倍3倍にふくらむわけです。

ただでさえ治療費にお金がかかるというのに、更に個室を選んで差額ベッド料金を払う必要があるのだろうか?

私の答えは「NO」。
私が推薦したいのは「大部屋」なんです。もちろん、お金の節約という意味もありますが、なんといっても「大部屋は楽しい」のです。

「えー? 入院なんて、楽しいわけないじゃん」と思うでしょ。確かに、個室でお見舞いの人を待つだけだったら、孤独〜って感じです。でも、大部屋の雰囲気には、ハリー・ポッターの寄宿舎生活みたいに「華」「にぎわい」「明るさ」がある気がします。女性の病棟の場合は、全寮制女学校、かな。

入院、というのは、「旅」にも似ています。ある土地を旅してきて、その宿を選んだひとり旅の女性が6人。たまたまその夜、6人は同じ宿のドミトリー(相部屋)で過ごすことになった。そう考えると、すごく似てます。インドとか、タイの安宿が連想されます。初めて会った人同士でも、マナーを守って気分良く同じ空間で過ごしましょう、という合意がそこにあるんです。


旅と違って、入院の目的は病気の治療なわけですが、「つらさを乗り越え、しっかり治療して元気になりたい」というのは全員に共通の気持ちです。

不安があっても、先に入院していた先輩の話を聞けば安心できます。それに、住まいや職業がバラバラ、年齢もまちまちの女性が6人集合して、数日間という長い時間を共有するなんて、滅多にあることじゃありません。

全員と仲良くというのは難しくても、気の合う友達ができるケースはあります。私も、2度目の入院の際に、Mちゃんという入院友達ができました。Mちゃんは、私の1日後に手術を受けた人で、入退院の時期がほぼ同じ、3週間にわたってお隣のベッドで過ごす間に、よく話をするようになりました。話のきっかけは、私が持参した中国茶の小さな口杯(こうべい)。お互い台湾と台湾茶好きであることが判明してからは、年齢が近いこともあって、話が弾みました。

6人集まると、それぞれに症状や状況が異なるので「助け合い」精神が発達します。弱っている人は助けてもらえるし、自分に余裕があるときは、術後で動けない人に対して手伝う気になります。それに、基本的には「ベッドで休養するのが仕事」状態なので、時間はたっぷりあって、ヒマなんです。そのヒマをどう楽しくしていくか。「学級文庫」のように共同で楽しむ雑誌や本ができたりします。

お風呂の順番を決める時は、入院期間が長い人から順番に希望を書くという「秩序」もありました。大部屋の場合は、時間軸でその順位を決めるのが一般的です。一番わかりやすい基準ですから。

そういえば、3週間入院している間に、私も一度「この部屋で一番長く入院している人」になったことが。「私もえらく(?)なったなあ」としみじみ思ったものでした。

私が入院した病院の「入院のしおり」には、こんなことが書かれていました。

今日から、あなたの病院での生活が始まります。
病院もひとつの小さな社会です。
こころよく療養ができますよう、このしおりをお読みください。

そう、病院は社会。入院もある種の社会生活なのです。心がけ次第で、楽しむことも可能な空間なのです。